「RUBUNI RASHID SAID」
(ルブニ・ラシッド・サイード)

RUBUNI RASHID SAID(ルブニ・ラシッド・サイード)
RUBUNI RASHID SAID(ルブニ・ラシッド・サイード) は、タンザニアを代表するティンガティンガ・アーティストの一人であり、動物画の伝統を忠実に継承しながらも、豊かな色彩感覚と緻密な装飾表現によって独自の世界観を築き上げてきた作家です。
現在は TINGATINGA ARTS CO-OPERATIVE SOCIETY(ティンガティンガ工房) の会長(Chairman)を務め、創作活動と後進育成の両面からタンザニア美術界を支える重要な存在として知られています。
タンザニア南部の自然が育んだ感性
ルブニは、タンザニア南部ルヴマ州トゥンドゥル県ナカパンヤ地区ミンドゥング区リワングラ村で生まれました。
この地域は広大な森林やサバンナに囲まれ、多様な野生動物が生息する自然豊かな土地として知られています。
幼少期から自然と共に暮らしてきたルブニにとって、動物たちは単なる観察対象ではなく、日々の生活や文化と深く結びついた身近な存在でした。
後年、彼が数多くの動物作品を描くようになる背景には、この豊かな自然環境で培われた感性が大きく影響しています。
ティンガティンガとの出会い
ルブニが本格的に絵画制作を始めたのは1990年のことです。
師となったのは Zaburi Chimwanda(ザブリ・チムワンダ)。
当初、絵を描くことは決して容易ではありませんでした。
本人も「最初はとても難しかった」と振り返っています。
しかし繰り返し描き続けることで技術を身につけ、やがて模倣から脱却し、自身のオリジナル作品を次々と生み出すようになりました。
この過程は、多くのティンガティンガ作家に共通する「継承と創造」の精神を象徴しています。
ティンガティンガ・アートは弟子が師から学びながらも、最終的には自らの表現を確立することが求められます。
ルブニはその理想的な継承者の一人と言えるでしょう。
動物画へのこだわり
ルブニ作品の中心にあるのは、やはり動物たちです。
チーター、ゾウ、キリン、アンテロープ、シマウマ、カバ、ライオン、鳥類など、アフリカの野生動物を数多く描いています。
しかし彼の作品に登場する動物は、単なる自然図鑑的な存在ではありません。
大きく見開かれた目。
リズミカルに反復する模様。
鮮やかな色彩。
そして画面全体に漂う生命感。
それらは動物たちが持つ力強さや美しさを象徴的に表現するためのものです。
特にルブニは、動物の持つ「優雅さ」と「生命力」の両立に優れています。
ゾウは堂々とした威厳を、
キリンは軽やかな気品を、
チーターはしなやかな躍動感を、
それぞれ独自の造形感覚によって描き分けています。
色彩の芸術家
ルブニが好む色は、
黄色
青
赤
黒
白
です。
これらはティンガティンガ・アートの基本色でもありますが、ルブニはそれらを非常にバランス良く配置することで知られています。
黄色は生命の輝き。
青は空や水の広がり。
赤は情熱や大地のエネルギー。
黒は輪郭と力強さ。
白は光と調和。
彼の作品では色彩が単なる装飾ではなく、画面全体のリズムを生み出す重要な要素として機能しています。
伝統を守るアーティスト
近年のティンガティンガ・アートは、人物画や都市風景画など多様な表現へ発展しています。
その中でルブニは、創始者エドワード・サイディ・ティンガティンガ以来の「動物画」という伝統を大切に守り続けている作家の一人です。
彼の作品には、ティンガティンガ・アート本来の魅力である
平面的な構成
強烈な色彩
装飾的な模様
動物への愛情
が色濃く残されています。
そのためルブニの作品は、現代作品でありながら創始者エドワードの精神を感じさせる数少ない存在として高く評価されています。
TINGATINGA ARTS CO-OPERATIVE SOCIETY会長として
ルブニは優れたアーティストであると同時に、ティンガティンガ工房を率いるリーダーでもあります。
現在、タンザニア国内外から多くの観光客やコレクターが工房を訪れますが、彼はその窓口として若手作家の支援や作品の普及活動に尽力しています。
創始者エドワード・サイディ・ティンガティンガが残した芸術を次世代へ継承すること。
そしてティンガティンガ・アートを世界へ発信し続けること。
それが会長としての重要な役割となっています。
創作哲学
ルブニは新しい作品を考えることを決してやめません。
動物画という伝統的テーマを守りながらも、常に新しい構図や模様、色彩表現を模索しています。
彼にとって芸術とは完成するものではなく、絶えず進化し続けるものです。
そして彼は長年、自身の夢としてこう語っています。
「いつか日本へ行き、自分の芸術を届けたい。」
これは単なる旅行への憧れではありません。
自らが描いてきたタンザニアの自然や文化を、遠く離れた国の人々にも伝えたいという願いです。
芸術的評価
ルブニ・ラシッド・サイードは、ティンガティンガ・アートの創始者エドワード・サイディ・ティンガティンガが築いた動物画の伝統を現代へ受け継ぐ重要な継承者の一人である。
マウルス・マリキータが都市の暮らしを描き、マルティナ・ティンガティンガが装飾性を深化させたとすれば、ルブニは自然と動物というティンガティンガ・アートの原点を守り続けている作家と言える。
その作品は、アフリカの野生動物を描いた絵画であると同時に、タンザニアの自然への敬意と生命への賛歌でもある。


RUBUNI RASHID SAID の作品世界
ティンガティンガの原点を受け継ぐ画家
現代ティンガティンガには大きく二つの流れがあります。
一つはマウルス・マリキータに代表される市場や病院、街角の風景などを描く社会派の流れ。
もう一つは創始者エドワード・サイディ・ティンガティンガ以来の伝統である動物画の流れです。
ルブニは後者を代表する存在です。
彼の作品には現代都市はほとんど登場しません。
代わりに登場するのは、
チーター
キリン
ゾウ
シマウマ
鳥
アンテロープ
などの野生動物たちです。
しかしそれらは自然図鑑のような動物ではありません。
ルブニの描く動物たちは、タンザニアの自然そのものを象徴する存在として画面に現れます。
《チーターと子ども》
(添付作品1)
この作品はルブニ芸術を理解する上で非常に象徴的な作品です。
母子のテーマ
まず目を引くのは、
大きなチーターと子どものチーターです。
これは単なる親子ではありません。
アフリカ文化において母子は、
継承
保護
命の循環
を意味します。
ルブニは捕食者としてのチーターではなく、
母親としてのチーターを描いています。
そこにあるのは優しさです。
オレンジ色の背景
背景を埋める鮮烈なオレンジ。
これは夕焼けや大地を思わせます。
ティンガティンガでは背景色は空間ではなく感情を表します。
この作品のオレンジは、
生命の温かさ
を表しているように見えます。
水玉模様
チーターの斑点は写実的ではありません。
均一なドットとして描かれています。
これによって動物は自然物ではなく、
装飾的な存在へと変化します。
この感覚はエドワード作品から続くティンガティンガの重要な特徴です。
鳥の存在
背景に描かれたモノクロの鳥たち。
これはルブニ作品によく見られるモチーフです。
彼の作品では鳥は空間をつなぐ存在として機能しています。
動物だけでは画面が静止します。
鳥を加えることでリズムが生まれるのです。
《青のキリン》
(添付作品2)
これはルブニ作品の中でも特に完成度が高い作品です。
色彩の冒険
キリンは通常黄色で描かれます。
しかしルブニはここで大胆にも
青と黒
を中心に構成しています。
これは現実を描いているのではなく、
美しさを描いていることを意味します。
静けさの美学
マリキータの作品は賑やかです。
人がいて、
車がいて、
会話がある。
しかしこの作品には静寂があります。
キリンは黙って立っています。
鳥たちも騒がない。
空間そのものが瞑想的です。
エドワードとの共通性
創始者エドワード作品を思い出してください。
象。
コウモリ。
鳥。
そこには静寂がありました。
ルブニはその精神を継承しています。
樹木の存在
中央の大樹は単なる背景ではありません。
アフリカ文化において木は
生命の象徴
です。
キリンと木は互いを支える存在として描かれています。
ルブニ作品の特徴
① 動物への深い愛情
彼は動物を獰猛な存在として描きません。
むしろ親しみのある存在として描きます。
② 強い装飾性
身体は模様で覆われています。
しかしその模様は単なる飾りではなく、
画面全体のリズムを作っています。
③ 色彩の大胆さ
黄色
青
赤
黒
白
という本人の好きな色がそのまま作品世界を形成しています。
④ 静かな世界観
現代ティンガティンガでは珍しく、
余白や静寂を大切にしています。
⑤ 創始者への敬意
ルブニ作品にはエドワード・サイディ・ティンガティンガの影響が色濃く残っています。
だからこそ彼の作品は、
「伝統的ティンガティンガ」
の魅力を最も純粋な形で伝えるものとして評価されています。
-1.jpg)